【労務管理】裁量労働制とは
労働基準法では、使用者に対して、労働者に原則として1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならないと定めています。
しかし、労働時間制を柔軟にするための特別な制度もあり、昭和62年の労働基準法改正(昭和63年4月施行)によって設けられた「裁量労働制」はそのひとつです。
裁量労働制は、『労働の量(実労働時間の長さ)』ではなく『労働の質(成果)』による報酬の支払いを可能にするものとも言われています。
裁量労働制により、効率的な働き方による生産性の向上や、柔軟で多様な働き方につながるといった労使双方にとってのメリットが期待されますが、一方で、正しく運用されないと長時間労働や労働者の心身に負担をかけやすくなってしまう懸念があります。
似たような制度で高度プロフェッショナル制度というものがありますが、高度プロフェッショナル制度は年収1,075万円以上という年収要件がある一方、裁量労働制に年収要件はありません。
裁量労働制の種類
昭和62年の労働基準法改正によって設けられた裁量労働制は、その後何度か法改正を経て、現在は「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。
専門業務型裁量労働制
対象労働者 | 専門性の高い業務として定められた次の20業務に従事する労働者 1 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務 2 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務 3 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務 4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 5 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務 6 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務) 7 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務) 8 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務) 9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 10 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務) 11 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 12 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。) 13 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務) 14 公認会計士の業務 15 弁護士の業務 16 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務 17 不動産鑑定士の業務 18 弁理士の業務 19 税理士の業務 20 中小企業診断士の業務 |
労働時間 | 労使協定で定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間) |
導入の流れ | ①次の必要事項等を定めて労使協定を結び、労働基準監督署長に届出する。 【労使協定の内容】 ・対象とする業務 ・1日の労働時間としてみなす労働時間 ・対象業務の遂行手段等について、使用者が具体的な指示をしないこと ・健康・福祉確保措置 ・苦情処理措置 ・制度の適用に労働者本人の同意を得なければいけないこと ・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと ・制度の適用に関する同意の撤回の手続き など ②必要に応じて就業規則等の整備、届出。 ③労働者本人の同意を得る。同意の取り方について具体的な手続を労使協定で定めることが適当。 ④制度を実施する。 |
また、労働新聞社の報道によると、労働基準監督署の窓口において、『対象業務に付随する補助的業務のみに従事している場合』は要件を満たさないものとして労使協定届を不受理とし、指導文書を交付する対応がとられているようです。
企画業務型裁量労働制
対象労働者 | 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務のうち、以下の4つの要件すべてを満たす業務を行う労働者 ・業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど) ・企画、立案、調査及び分析の業務であること ・業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること ・業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること |
労働時間 | 労使委員会の決議であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす(=みなし労働時間) |
導入の流れ | ①「労使委員会」を設置する ②労使委員会で決議する 【決議しなければならない事項】 ・制度の対象とする業務 ・対象労働者の範囲 ・1日の労働時間としてみなす時間 ・健康・福祉確保措置 ・苦情処理措置 ・制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと ・制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと ・制度の適用に関する同意の撤回の手続 ・対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと など ③必要に応じて就業規則等の整備、届出。 ④労働者本人の同意を得る。同意の取り方について労使委員会で決議することが適当。 ⑤制度を実施する。 ⓺決議の有効期限の始期から起算して初回は6箇月以内に1回、その後1年以内ごとに1回、所轄労働基準監督署へ定期報告を行う。 |
裁量労働制を適用されている労働者の傾向
令和3年に公表された「裁量労働制実態調査」によると、 裁量労働制を適用されている労働者には次のような傾向がみられます。
(参考 国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― No. 1189(2022. 3.31) 裁量労働制をめぐる課題)
- 裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者よりも「1日の平均労働時間数」が21分長く、「労働時間が週60時間以上」の割合や、「深夜に仕事をすることがある」割合も高い
- 1日の平均睡眠時間は、裁量労働制を適用されている労働者とそうでない労働者でほぼ同じ
- 健康状態については、裁量労働制を適用されている労働者の方がそうでない労働者と比べて「健康状態がよい」と答える傾向がある
- 裁量労働制を適用されている労働者の約4割が自身に適用されているみなし労働時間を把握していない
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